学習塾業界の未来を考える~サプライヤーの影響力の変化~ |ブログ|株式会社Lacicu

学習塾業界の未来を考える~サプライヤーの影響力の変化~

学習塾業界の未来を考える~サプライヤーの影響力の変化~

株式会社Lacicuの山田です。

以前、学習塾業界の外部要因を分析したコラムを書きました。
PEST分析⇒コラムはこちら
5フォース分析⇒コラムはこちら

その中で、異業界から教育業界の参入が非常に脅威になるということを書きました。

そしてさらに、「すらら」や「atama plus」など、サプライヤーの影響力が大きく変化しています。

先週、衝撃のニュースが届きました。
異業界の、しかもプリファード・ネットワークスが教育事業に参入するとは夢にも思っていませんでした。

https://preferred.jp/ja/news/pr20200706/

このニュースを見たときに、衝撃を受けた人も多いと思います。

ここから、学習塾業界にどのような影響がでるのか、どう変革していくかを考察したいと思います。

 

プリファード・ネットワークスどはどのような会社か?

簡単にご紹介しておきます。

プリファード・ネットワークスは、AI開発を手掛けるベンチャー企業です。
主に、ディープランニング(深層学習)による「IoT」のビジネス活用に取り組んでいます。

企業価値が10億ドル(約1,100億円)を超え、新しいビジネスモデルで成長を目指す企業(スタートアップ企業)を「ユニコーン」と呼びます。
プリファード・ネットワークスは日本一のユニコーン企業であり、上場時の時価総額は1兆円を超えると言われています。

プリファード・ネットワークスの企業価値は2,326億円。
2018年6月に上場した メルカリの企業価値は1,479億円。

トヨタ自動車やNTT、ファナック、日立製作所など大企業が相次いで出資していることからも、同社の技術力に注目が集まっているのが分かります。

・トヨタ自動車は合計で115億円を出資。国内スタートアップ企業に投資した中で過去最大規模。
自動運転の画像処理やビッグデータ解析などで提携。
・NTTは2億円を出資。
ビッグデータ解析技術の運用などで提携。

世界屈指の技術者が集まっているプリファード・ネットワークスは、事業内容の将来性も企業としての注目度も非常に高いです。

出資される側かと思いきや、ベンチャー投資も行っているようです。
2020年6月に漫画製作を行う株式会社フーモアに、りそなキャピタル株式会社と共に出資しています。

 

そのほか、サプライヤーの主な情報

上記の情報から、プリファード・ネットワークスという会社がどれぐらいすごいか、そしてそんな会社が教育業界に参入してきた衝撃の大きさがわかると思います。

また、そのほかにも教育業界でのコンテンツメーカーの主な動きは以下の通りです。

【株式会社すららネット】

「すらら」の姉妹版「すららドリル」全国初、東京都三鷹市で全小中学校に導入

無学年式 AI×アダプティブラーニング「すらら」東京都多摩市の不登校児童生徒支援 ICT教材として採択

無学年式 AI×アダプティブラーニング「すらら」群馬県前橋市の全中学校に導入

「すらら」に関しては、全国の小・中学校への導入が加速しているように見えます。
3月には小・中学生の理社にも対応するようになりました。勉強を教えるという作業は、ほぼ「すらら」で完結できることになります。

今後も小・中学校への導入が進むとなると、学習塾へのニーズが大きく変化することになると思います。

 

【atama plus株式会社】

AI先生「atama+」、塾・予備校の新常態も支援

オンライン授業や家庭学習など非対面でも、生徒が質問をしやすく。AI先生「atama+」のオンライン質問機能を拡充

駿台予備学校、7月中旬まで全校舎の対面授業を休講 同期間中、全生徒にatama+を活用したオンライン授業を提供

「学校内個別指導塾」を運営するリソー教育グループの「スクールTOMAS」が、AI先生「atama+」を本格導入。家庭学習も含めた学習支援サービスを全国27の学校に提供

能力開発センターや駿台予備学校、城南予備校DUO、Z会グループの大学受験ディアロなど大手塾に採用されている「atama+」が、次々と新しいサービスを打ち出しています。
特にオンライン質問機能がついてしまったため、ますます塾の価値が問われることになっています。

 

【株式会社COMPASS】

AI型教材「Qubena中高英語 by河合塾」 4月下旬に提供開始

AI型教材「Qubena(キュビナ)」学校法人大阪初芝学園 初芝富田林中学校高等学校に全校導入

AI 型教材「Qubena(キュビナ)」を開発する COMPASS 小学館グループ参画のお知らせ

「Qubena」も塾と学校の両方に導入されているコンテンツです。
昨年12月に小学館グループに買収されました。今後は、既存の大手企業が有力なEdtechベンチャーを買収していくという流れも多くなると思います。

 

個人的に最も注目しているのは、角川ドワンゴ学園N高等学校で利用しているオンラインアプリ「N予備校」です。

学習アプリ「N予備校」申込者全員に1年間無料で提供

教材、映像授業、Q&Aをがオールインされているアプリで、これひとつで全て対応できるものです。
プログラミングコースでは、「Webアプリケーション」「Unity」「Webデザイン」の3教材をそれぞれの基礎から学べる特別授業もあります。

プログラミング教室が非常に増えてきていますが、プログラミングこそオンラインで対応できる領域です。
そこまで幅広いジャンルをそろえられるのは、ドワンゴというWEB業界を主軸に置く、異業界からの参入だからこそできることでしょう。

 

サプライヤーの存在感が急激に高まる

上記の記事などを見ながら私が非常に強く感じる点としては、このようなサプライヤーの存在感が急激に高まっていることです。

以前のコラムで書いた、「サプライヤーの交渉力はそこまで高くない」という学習塾業界にとってプラスだった状況が、逆転してきていると感じています。

そこまで多くの資本投下がされていなかったところに、コロナを機に国の補助金等が大きく活用されることになりました。
また、教材やコンテンツはスイッチングコストが低かったのですが、データの蓄積と集約ができるようになってきているためスイッチングコストが高くなってきているように感じます。

そして、このようなサプライヤーが学校に導入し始めたことが、学習塾業界にとって大きな危機になるのではないかと思っています。
特に「すらら」や「atama+」などのeラーニングシステムの場合は、全て家庭学習で解決できます。
さらにオンライン質問機能が充実されれば、塾に行く意味は全くないのではないかと思ってしまいます。

「すらら」は学校への導入事例を順調に増やしており、「atama+」は大手塾の囲い込みを始めている状況です。
そうなると、個人経営の塾は大きな戦略の転換を迫られる状況です。

 

学習塾がただの下請け企業になってしまう未来

サプライヤーが強い状況になると、学習塾の立ち位置は相対的に下がります。

そうすると、

・システムの中身は、塾の先生にとってはブラックボックスで理解ができない
・仮に全ての学校や大手塾に導入が決まった場合、太刀打ちができない
・サプライヤーが直接toC販売に乗り出した場合、太刀打ちできない
・データは全てサプライヤーに集約されるため、学習塾でデータの活用ができない

などの影響が考えられます。

最悪の場合、全てのリソースはサプライヤーが提供し、学習塾はただの場所の提供・質問対応のみになります。
保護者の意識では月謝は塾ではなく、コンテンツに払う感覚になってしまうのです。

コロナの収束に時間がかかることを考えると、場所の提供も難しくなってきます。
そうなると学習塾の存在自体が危ぶまれるのではないでしょうか。

 

学習塾は何を提供すればよいのか

上記はあくまでも最悪の想定です。
この影響がすぐに全国に波及するかと言われればそうではないと思いますが、少なくとも影響はでてくるのではないかと私は考えています。

では、どうしていけばよいのでしょうか?
あくまでも私の考えですが、システムが解決できない俗人的な分野を強化することが光明になると思っています。

教科指導についてはすでにAI教材や、映像授業で解決ができる時代です。
それ以外の部分に、塾の強みを持ってくることが重要だと考えます。

(例①)中学受験の指導

中学受験の勉強は、問題正答ももちろん重要ですが、指導においては思考のプロセスが重要です。
この部分はAIのデータドリブンで解決できる問題ではありません。
さらに、中学受験は保護者対応力も非常に重要です。
全てデータで解決できる問題ではないため、塾での役割が大きい部分だと思います。

(例②)キャリア教育を含めた大学受験指導

どの大学を受けるのか、というところはその後のキャリアから逆算したり、可能性を選択させることが重要です。
データで弾き出せるものではなく、その人の内面を棚卸し、方向付けしていくコミュニケーション力が必要になります。
さらに数多くの参考書や映像授業があるのも特徴ですので、生徒の性格やモチベーションに応じて最適な教材を、最適なタイミングで提供することはデータでできることではありません。
受験コンパスが1対1の面談にこだわっているのにも、こういった理由があります。

そのほかにも、不登校などの精神的なケアが必要な子どもにサービスを提供するなど、人の要素を入れなければいけない部分は学習塾の強みが活きると思います。

 

さいごに

弊社も含め多くのコンテンツ企業は設立して3~5年ほどで、教育業界に大きなインパクトを与えています。
ここからさらに3年たつと、既存の学習塾のサービス構造は大きく変化していくと思います。
さらに異業界から大きな参入があれば、さらに変化は加速します。

「まだ大丈夫」

と思っていると、あっという間に置いていかれてしまうでしょう。

学習塾の構造もそうですが、先生に求められる能力も大きく変化していきます。
完全に「個」としてのスキルアップ、特に異業界の知識や生徒マネジメント力が今まで以上に求められる時代になるのではないでしょうか。

今だけではなく、少し先の学習塾の未来について考えるきっかけになれば幸甚です。

 

Lacicuでは、面談のスキル向上についても力を入れています。
今後のスキルアップのためにも、気になる方は一度ご相談ください。

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